ドクターズレクチャー

Doctor's Lecture

お腹の手術の本当を知ろう ―がんの手術編―

患者さんにとっては手術が必要だと理解できても、どのような手術になるのかわからず不安を抱えておられるものと思います。医学知識のない患者さん・ご家族にとって、担当医師との対面で行われた手術前説明だけでは、それがいくら丁寧に行われたとしても、すぐに納得できないのはもっともなことです。
ここでは、「がんの手術でどこが切りとられるのか」、「その部分が切りとられても大丈夫なのか」、「なぜ、その手術が適切と考えられるのか」を具体的にご理解頂けるようにお腹の代表的な手術について絵を使って解説させていただきます。各手術法の長所・短所をご理解いただき、十分納得したうえで治療を受けて頂くための手助けになればと考えております。

がんの治療で胃を切ると説明を受けました。
胃を切り取っても食事はできますか?

心配いりません。手術前の8割方ぐらい食べられます。胃の手術を受けるとご飯が食べられないのではないかと心配される方がいるのは、かつて、「胃全摘術を受けると胃がなくなってご飯が入って行くところが無くなるから、一回におちょこ一杯ほどしかご飯を食べれない。」と噂されたことがあるからです。昔の手術では術後に食事がとれなくなる事が多かったのは事実ですが、それは胃が無くなったからではなくて、かつての胃全摘術の再建では高頻度に吻合部狭窄を来して、食物が空腸脚(小腸)に流れ落ちなかったことが原因の一つです。最近の手術ではそのようなことは減っており、どんぶりめしを一気に掻き込むような食べ方をする事はできなくても、多くの場合、お茶碗に一杯程度の食事は食べることができます。胃が無くなっても空腸脚に入った食物は蠕動(腸の動き)でどんどん奥に送られていくため、普通に食事を摂ることができます。
また、「胃を少しでも残しておくと、それが将来大きくなってたくさんご飯を食べれるようになると聞いた。」といわれる患者さんがいましたが、そんなことはありません。胃は再生する臓器ではありませんので、術後何年経っても手術で残した大きさのままです。ただ、時間が経つと体が順応して食後の小腸が食物を奥に運ぶ蠕動機能がよくなり、術直後よりも一回にたくさん食べられるようになるのも事実です。

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大腸を切除したら人工肛門になりますか?

大腸の切除をしたら人工肛門になってしまうのではないかと心配して手術をためらう患者さんが結構おられます。しかし、手術は手術前と変わらない生活が営めるようにするのが基本ですので、切除した大腸との端と端をつなぎ合わせる(吻合といいます。)ため人工肛門を必要とするのは限られた場合だけです。
まず、人工肛門には大きく分けて永久人工肛門と一時的人工肛門の2種類があります。後者は腹膜炎の手術や吻合部が弱くてほころびが心配される場合に合併症から守るために一時的に人工肛門としますが、後々に閉鎖します。
患者さんが気に病まれるのは前者の永久人工肛門の場合です。多くの大腸切除では吻合が可能なため人工肛門にはなりません。どうしても人工肛門を必要とするのは肛門に極めて近いところにがんができた場合だけです。がんの位置が肛門から6cm以上離れていれば、人工肛門にする事はまずありません。それより肛門に近い場合でも再発の恐れが高くない場合には外科医は極力人工肛門を回避する手術を心がけています。主治医と良くご相談ください。

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肝臓の手術は難しいと聞いていますが、大丈夫でしょうか?

肝切除術は複雑に絡み合う血管の塊を切るような手術であり、大きな血管に傷がつくと大出血を引き起こします。しかも、手術のために肝臓に入っていく血流を止めておく時間が長くなったり、手術を契機に感染を起こすと術後肝不全の引き金になります。このため、我が国では2008年から日本肝胆膵外科学会に高度技能専門医制度が発足し、複雑な肝切除手術は高度技能指導医・高度技能専門医によって、もしくは、その指導の下に行われることが推奨されています。諸外国では先進国でもいまだに8%近くの死亡率が発表されていますが、我が国では全国調査のデータベース解析で肝切除術に伴う死亡率は2.4%と低く抑えられています。
肝切除術を安全に行うためには手術の技術のみならず、手術前に残肝の能力を推定した手術設計を行う事や、術後の合併症に対して迅速適切な対応をとれる体制が整っているかどうかも重要な要素になります。このため、日本肝胆膵外科学会の高度技能指導医または高度技能専門医が在籍し、消化器内科や放射線科とのチームワーク体制がとれた施設で手術を受けることが重要です。

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家族が胆管がんと診断されました。手術について詳しく教えてください。

胆石という言葉は聞いたことがあっても、胆管とか胆道という言葉にはなじみがないかもしれません。胆道とは肝臓で作られた胆汁という消化液を十二指腸に運ぶための道筋をいいます。大きくは胆汁を運ぶためのパイプラインである胆管と胆管の途中に設けられた胆汁の貯水池(溜め池)である胆嚢(胆のう)からなります。胆のう内に胆石ができれば胆のう結石、胆管内に胆石ができれば(総)胆管結石と呼ばれます。胆のう結石ができると胆のう炎を起こすため胆のう摘出術が行われます。胆のうは高速道路のサービスエリアのように本線から側道(胆のう管)を介してつながっていますので、側道を閉鎖して胆のうを摘出しても本線である胆管の流れを邪魔することはありません。
一方、胆管を切除する必要がある場合には胆汁の流れる道を作り直さなければ(再建といいます)肝臓で作られた胆汁が十二指腸にたどり着くことができません。通常、胆管結石の手術では胆管を開いて胆石を除去した後に胆管の壁を縫うことができるため、胆管を切除する必要に迫られることは少ないのですが、胆管にがんができた場合には長い距離に及んで胆管を切除する必要があります。しかも、がんのできた位置が肝臓に近い時は肝切除術と胆管切除を合わせて行う必要のある場合が多く、がんのできた位置が十二指腸に近い時は膵頭十二指腸切除術が必要となります。胆管は10cmに満たない短い管ではありますが、多くの場合肝切除や膵頭十二指腸の合併切除が必要なため、お腹の中の手術では一番複雑な手術の部類に属します。

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膵頭十二指腸切除術って言われました。その後の生活に支障はないですか?

膵頭十二指腸切除術では、十二指腸・胆管の一部・胆嚢・胃と小腸の一部も切除します。切除後、肝臓は全て残っていますが、胆管は途中までです。胃はほとんど全部残されていますが十二指腸が全てなくなります。膵臓は病気の膵頭部がなくなるため、残された左側半分の膵臓の膵管が断端でぷっつりと切られて、膵液がおなかの中に垂れ流しの状態になっています。小腸は全て残っています。このままでは食べたものを小腸で消化し、栄養を吸収することができないので、胃から出てくる食べ物、胆管から出てくる胆汁、膵管から出てくる膵液が全て小腸の中に流れ込めるように、それぞれをつなぎ合わせる必要があります。これを消化管の再建といいます。
胆管の断端と膵管の断端は場所を大きく移動させることができないので、小腸を40cm程上の方に持ち上げて、膵管と小腸、胆管と小腸をそれぞれつなぎます。これで、膵液と胆汁が小腸の中に流れ込み、2つが混じり合って強い消化液になります。この消化液が流れてくる小腸の下流(肛門側)に大きな孔をあけて胃の断端とつなぎます。これによって、胃液によって粗ごなしされた食べ物が、小腸に流れ込んで、胆汁・膵液ととも混ざり合って、手術前と同じように小腸での消化と栄養の吸収ができるようになります。おなかの中の構造は大改造となりますが、働きとしては手術前とほぼ同様になりますので、これまで通り、自分でご飯を食べて、自分のおなかの力で消化して生きてゆけるようになります。

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膵体尾部切除術と言われました。どんな手術でしょうか?

膵体尾部切除術は膵頭部を残して、切除範囲として膵臓の尻尾側だけを切り落としてしまう手術なので、食べ物や膵管・胆管などの消化液が通る道を組み立て治す必要がありません。このため、膵頭十二指腸切除術に比べると手術時間も短くて済みますし、合併症の危険度も低い手術ではあります。
がんに対して膵体尾部切除術を行う場合には周囲にあるがん転移の可能性が高いとされるリンパ節もひとまとめにして切除する必要があります(リンパ節郭清)。この郭清が必要なリンパ節は脾動脈という太い血管に沿ってたくさんあり、しかも、脾動脈は一部膵臓内にめり込むようになっているため、取りこぼしが生じないように、手術では脾動脈をその根元で切って、膵体尾部とひとかたまりにして切除するのが基本です。さて、この脾動脈ですが、膵臓の体尾部に血液を運んだ後に、いちばん最後に膵臓の左端にくっついている脾臓にも血液を供給しています。膵臓の体尾部はがんと一緒に取り去られてしまうので問題ありませんが、脾臓にも血が行かなくなってしまいます。血が通わなくなった脾臓を体内に残しておくと、腐ってしまいますから、脾臓も一緒に切除の範囲に入れる必要があります。
さきに述べたように、食べ物や膵管・胆管などの消化液が通る道を組み立て治す必要がない手術なので、縫合不全の心配はありません。しかしながら、膵の離断部では膵液を十二指腸に向かって運んでいる膵管も切れてしまうことになります。離断部で主膵管の端が開きっぱなしだと、膵液がそこから逆流しておなかの中に漏れることになるため、主膵管の切り端は糸やホッチキスのような器械で閉鎖しますが、主膵管以外の非常に細かな膵管は閉鎖しきれません。これらの微小膵管からの膵液逆流をもとに頑固な膵液漏を生じることがあります。膵液瘻(ろう)と呼ばれるこのような合併症が20~40%の膵体尾部切除手術後に起こります。通常は膵液だけの漏出なので大きな問題にはなりませんが、ばい菌がつくと膵液が活性化されて強力な消化力を発揮する様になり、内臓の自己消化によって重篤化する事があります。

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最後に

神戸労災病院では常に患者さんと向き合いながら、患者さんとともに治療を進めることが病院の提供すべき最大のホスピタリティであると考えています。患者さん・ご家族からの信頼に足る、そして、最先端の標準治療をお約束できる外科であり続けられるように日々研鑽を続けております。

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