糖尿病の「チーム医療」(2)

前回のコラムでは、糖尿病内科の西海智子医師に、糖尿病に対するチーム医療の取り組みとメリット、将来像などをお話しいただきました。
今回は、神戸労災病院の糖尿病医療チームのメンバーに、それぞれがチームで果たす役割を紹介していただきます。

 

 

【医師の役割】

糖尿病は、「1型」か「2型」かなど糖尿病のタイプによって治療法が大きく異なり、患者さんの年齢や既往歴、症状の重さなどに応じた、細やかな指導が必要となります。

まずは、医師の診断に基づいて、血糖コントロールの基準値や、食事指導の適正カロリー、投薬の有無など、治療方針の大きな流れを決めていきます。

 (担当)糖尿病内科 医師 西海智子/玉川杏奈

医師は、患者さんの診断結果に合わせて、各スタッフに指示を与える「チームの司令塔」です。たとえば、栄養士にカロリー等の食事内容の基本ラインを伝え、薬剤師にインスリン注射がきちんと打てているか、薬を正しいタイミングで飲めているかなどを確認するように依頼します。
また当院では、糖尿病内科の医師らが講師となって「糖尿病教室」を開催し、他の病気で入院・通院しておられる患者さんにも聞いていただけるようにしています。というのも、糖尿病そのものは死亡率の高い病気ではないですが、さまざまな病気の引き金になったり、合併症により重篤な状態に陥ったりといったリスクがあるからです。
日本では糖尿病の患者さんが年々増加しています。糖尿病と診断されても病院で治療をうけている人が50%程度と言われています。糖尿病は自覚症状の出にくい病気です。何か自覚症状が出た場合には、既に合併症が進行してしまっている、そのような人をお一人でも減らしたい。
糖尿病に関する知識を持っていただくことで、合併症を未然に防ぎ、退院後の自宅療養で生かしていただくことができると思うので、ぜひ糖尿病教室へ積極的に参加していただきたいですね。

 

 

【栄養士の役割】

糖尿病治療の要である食事療法を管理。患者さんのライフスタイルを探り、カロリーや血糖値のコントロールを栄養面からサポートします。
特定の科に属していないため、流動的にひとりの患者さんを追跡することが可能です。

 

(担当)栄養管理室 管理栄養士 久永 文/大橋 幸子/枝廣 由季子

糖尿病の治療の基本であるエネルギーコントロール食(成人・1日約1400~2000Kcal)をご提案しても、ご自宅で継続的に実施していただくことは容易ではありません。というのも、糖尿病の傾向がある方は、もともと食べ物にこだわりの強い方が多いので、「これを止めてください」と部分的な改善をお願いしても、なかなか実践していただけないのです。もっと根本的に生活習慣を変えるような指導を継続的に行う必要があります。
そこで、まずは患者さんの生活習慣を細かく聞き取りさせていただき、「食事だけで改善するのは大変だな」と感じた場合は、その内容を医師にフィードバックし、お薬の助けを出してもらうこともあります。
また、昨今はメディアなどを通じて、「健康情報」や「民間療法」が流れているので、そうした情報に振り回されておられないか、なども確認します。ときどき、院内の売店で販売している商品にも目を光らせて、たとえば「ブドウ糖」を含む食品や飲み物など摂取に注意が必要なものがないかをチェック。患者さんが、良かれと思ってとった行動が、症状の悪化や改善の妨げになってはいけませんから。

 

 

 

【薬剤師の役割】

医師の診断により処方された薬剤を調剤・監査し、服薬指導により服用や自己注射などが、正しく実施されているかを確認。副作用や合併症など、他の疾患に影響を及ぼす可能性にも気を配りながら、薬剤による血糖値のコントロールを管理します。 

(担当)薬剤部 薬剤師 鹿間 良弥/長田 知子/先崎 健造

インスリン等のお薬を処方しているにもかかわらず、血糖値に思ったような効果が見られない場合は、正しい時間に正しい量を内服や注射しておられるのか、自己注射の方法が間違っていないかなどを確認します。インスリンの場合、針を抜くタイミングが早いなど、患者さんが「大丈夫」と思っていても、プロである私たちが確認してみると、間違いが見つかることがあります。
ときには、「薬があれば大丈夫」とばかりに、暴飲暴食してしまう方も……。管理栄養士、看護師らと連携しながら、治療効果が上がるよう患者さんをサポートしていきます。
神戸労災病院は、病棟はおおむね科別に分かれていますが、あまり糖尿病の患者を受けない病棟では、たとえ既往歴に糖尿病があっても、なかなか目が行き届かないのが現状です。このチームだけでなく、院内の全職員が「糖尿病は、さまざまな疾患に影響を及ぼす病気である」と理解し、いつどこの病棟に患者さんが入院しても、その場に糖尿病療養指導士(※)がいなくても、病院全体で指導できるような体制になれば、それが真の「チーム医療」なのではないかと思っています。
※糖尿病療養指導士
糖尿病とその療養指導全般に関する正しい知識を有し、医師の指示の下で患者に熟練した療養指導を行うことのできる医療従事者(看護師、管理栄養士、薬剤師、臨床検査技師、理学療法士の資格を有する者および准看護師、栄養士の資格を有する者)のこと。

 

 

【看護師の役割】

患者にとって最も身近な存在であると同時に、他分野の医療スタッフと接触する機会も多い看護師は、チーム連携の中継役となりうる大切なポジションです。 

(担当)病棟 看護師 澁谷 由華

 白衣の医師を前にすると、なかなか本音や弱音を口にすることができないという方は少なくないと思います。糖尿病で入院されている患者さんも、病気や治療について疑問や不安があっても、先生方に話せずに我慢してしまう事もあるかもしれません。
それに比べ、看護師に対しては正直な気持ちを話しやすい、と言われる方も少なくありません。
私たちは患者さんの「最初の言葉」「心の声」をみつけやすい立場にあるような気がしています。
そういったことを自覚した上で、患者さんと糖尿病チームの橋渡し、窓口になれたら、と考えています。
また、患者様が楽しんで糖尿病教室に参加できるようになることが大切です。
「糖尿病教室、とてもわかりやすかった。参加して良かった!」と一人の患者様がおっしゃることで周りの皆さまも「行ってみようかな?」と興味をもっていただけるかもしれません。そのためにはわかりやすく、気軽に参加できる糖尿病教室をつくっていかなければいけないと思っています。たくさんの患者様に来ていただける、楽しい糖尿病教室になるようチームみんなで頑張っていますので、ぜひ、遊びに来てください。

 

【臨床検査技師の役割】

血糖やヘモグロビンA1c、コレステロールなどの値を調べる血液検査をはじめ、尿糖や尿タンパク等を調べる尿検査、また、動脈硬化など糖尿病合併症を調べる生理機能検査などを担当しています。 

(担当)検査科 臨床検査技師 谷口 大輔/林 礼子/高瀬 晶

 検査は毎日行われるものではありませんから、患者さんとはスポットでの関わりになりますし、直接お顔を合わせることも稀です。けれど、「糖尿病チーム」の一員となり、カンファレンスに出席するようになってからは、お一人おひとりの患者さんの経過を追跡できるようになり、検査データの数字を読むときの気持ちも変わりました。そして、少しでもレベルアップしたいと検査科内で勉強会を開催するようになりました。さらに、「糖尿病教室」の講師もさせていただいているのですが、知識豊富な患者さんの質問に専門家としてお答えせねばというプレッシャーが、向上心につながっています。
糖尿病の治療法や検査方法は日進月歩で進化しています。外来の患者さんに当日のうちに結果をお知らせできるような体制を当院では整えております。患者さんの利便性を高める意味でも、私たちがさまざまな検査への見識を深め、対応できる力を養っていかねばと思っています。