糖尿病の「チーム医療」(1)

わが国の糖尿病患者数は年々増加を続けており、厚生労働省が発表した「2007国民健康・栄養調査」によると、糖尿病と考えられる人が全国で890 万人、可能性を否定できない「予備群」まで合わせると、2210万人と推定されています。
「生活習慣病」の代表格ともいえる糖尿病を治療するには、薬剤投与のほか、食事療法や運動療法といった、生活習慣全般の改善が欠かせません。
そこで神戸労災病院では、医師、薬剤師、管理栄養士、看護師、理学療法士といった医療のプロたちが、それぞれの専門性を持ち寄ってトータルケアを行う「チーム医療」を実施しています。
そこで、糖尿病に対するチーム医療のメリットや今後の展望を、チームスタッフの皆さんにお話しいただきました(全2回)

(お話:糖尿病内科・西海智子医師)

 

Q :一般的に、糖尿病にはどのような治療が行われているのですか?

西海:糖尿病には、生活習慣と無関係にインスリンの分泌が非常に少なくなる。「1型」と、インスリンは分泌できているものの、その量が少なかったり、タイミングが悪かったり、働きが悪いといった理由から血糖のコントロールがうまくできなくなっている「2型」とがあります。
日本では、9割以上の患者さんが「2型」で、その主な原因が“生活習慣の乱れ”だと言われています。症状の重さにもよりますが、基本的には食事療法や運動療法を軸に、必要に応じて血糖をコントロールするお薬(インスリンなど)を投与しながら、症状の改善を目指すよう指導するのが一般的です。

 

 

Q :どうして、糖尿病に「チーム医療」が有効なのでしょうか?

西海:糖尿病は、「患部を除去すれば完治する」といった類の病気ではありませんから、時間をかけて継続的に治療し、症状の悪化を防いでいかねばなりません。
また、入院治療をされる方よりも、自宅療法の方のほうが多いですから、私たち医師の目の届かないところで、血糖値の上がるようなお食事をとられたり、睡眠不足や心理的ストレスによって体調を崩されたり、といったケースも珍しくありません。
そこで、医師、薬剤師、管理栄養士、看護師、理学療法士、臨床検査技師らが、それぞれの立場から検査値の分析や患者さんへの聞き取り、日常生活のチェックなどを行うことで、あらゆる角度から患者さんの容体をみつめ、医師の問診だけではわからなかった問題点を発見したり、薬剤投与や食事指導が相乗的な効果を上げられるように連携をとったりすることが「チーム医療」のねらいです。
たとえば、問診のときは「食事のカロリーを控えて、毎日ウォーキングをしています」と優等生的な答えが返ってくるのに、いざ検査データをみると血糖値が改善していない……。そんなとき、患者さんが気を許している看護師にだけ、「ひさしぶりにうれしいことがあったので、つい一杯飲んでしまった」とポロリとこぼす。それが、重要な情報となって、矛盾が解けるといったこともあるわけです。

 

Q :薬だけ、あるいは食事療法だけでは、治りにくい病気なんですね。

西海:糖尿病は残念ながら今の医療では”治せない”病気です。インスリンの投与や、糖分やカロリーをコントロールすることによって、血糖値をコントロールすることができますが、たとえば「夫婦仲が悪い」「リストラされそうだ」といったストレスがかかると、ほかの努力が水の泡になるくらい、血糖値が乱れてしまうんですよ。
だからこそ、あらゆる要素をトータルに管理することが重要で、とりわけ心理面でのサポートは大切だと思います。慢性疾患だからこそ、病気とのつきあいが長くなり、なかなか症状がよくならないことで気が重くなることもあるでしょうし、うつ症状を合併されるケースも多いものです。将来的には、臨床心理士やカウンセラーにもメンバーに加わっていただきたいですね。ストレスを感じてしまうと、血糖値をコントロールするといった微妙な治療ができる状態になりませんから。

 

Q :チーム医療の難しさ、課題などはありますか?

西海:チーム医療のメリットは、それぞれの専門性を生かした多角的な指導や支援ができることです。一方で、かかわる人間が増えれば増えるほど、情報共有が難しくなり、チームとしての意見がまとまりにくくなる面もあります。それを解消するために、週1回のカンファレンスに参加することはもちろん、患者さんについて何か気になることがあったら、すぐに電話で確認したり、院内で会ったときに直接話したりと、できるだけその場で解決するようにしています。些細なことでも全員で共有する意識が大切です。

 

Q :最後に、今後の「チーム医療」に期待することをお聞かせください。

西海:チーム医療は、糖尿病だけに対して機能するものではありません。NST(栄養管理)のほかに、心臓病等のリハビリ、褥瘡(じょくそう)、摂食・嚥下(えんげ)、ICT(感染管理)、緩和などにおいても、医療スタッフがチームを組んで連携しています。
またまだ外に向かっての発信ができていませんが、近隣の病院と合同で研修会を開くことや、患者さんの栄養指導のお手伝いすることもありますので、少しずつ地域連携も進めていけたらいいですね。

 

 
 

次へ 糖尿病の「チーム医療」(2)へ続く