痛みが小さく、癒着も少ない 「腹腔鏡下手術 」の最前線 ~美容的メリットの大きい単孔式も~

腹部に3、4ヶ所の小さな穴をあけてカメラと手術器具を挿入し、モニターに映し出された腹腔内の様子を見ながら器具を操作して行う「腹腔鏡下手術」。開腹手術に比べてキズの痛みが少なく、癒着が起こりにくいと言われています。さらに神戸労災病院では、美容面からも注目される「単孔式」の腹腔鏡下手術に取り組んでおり、昨年10月からの半年間で胆のう摘出や虫垂切除など十数例に適用。いずれも経過は順調です。
技術や器具の進化などにより、さらなる発展が期待される腹腔鏡下手術について、日本内視鏡外科学会技術認定医でもある高瀬功三医師に聞きました。

 20年間で進化を遂げた腹腔鏡下手術

聞き手:外科治療の世界では、侵襲(しんしゅう:患者さんへのダメージ)を減らそうという大きな流れがあります。「腹腔鏡下手術」もその具体策のひとつですね。

高瀬:開腹手術ならば、メスでお腹を20センチ前後開いていたところが、数ミリ~1センチ程度の穴を3、4ヶ所開けるだけで済みます。当然、切り創(キズ)による痛みも軽く、手術跡もあまり目立ちません。合併症などがなければ、メリットは大きいと言えるでしょう。
また、腹腔内ではトロッカーや鉗子(かんし)などの器具を介して患部に直接アプローチできるため、腹腔内のあちこちを手で触れる開腹手術に比べると、癒着(本来離れているべき組織同士がくっついてしまうこと)が起こりにくいとも言われています。
あくまで統計上の話ですが、従来の開腹手術に比べて術時間がやや長くなるものの、出血量は少ないですし、術後の在院期間が明らかに長くなることもありませんでした。

聞き手:日本で腹腔鏡下手術が始まって約20年。最近はモニターの精度も上がり、手術の安全性も高まってきたようですね。

高瀬:腹腔鏡下手術のデメリットのひとつが、肉眼で見るより視野が狭いことでした。しかし、カメラやモニターの解像度が大幅に向上したこと(いわゆるハイビジョン画像)で大きく改善し、場合によっては肉眼で見るより詳細に観察できるケースもあるほど。結果的に、細かい血管や傷つけてはいけない神経などにまで配慮しながら、手術が進められるようになりました。

聞き手:遠隔操作ならではの難しさはありますか?

 

高瀬:肉眼なら3次元で見えるものが、モニター越しになると2次元になってしまうので、遠近感がつかみにくいのが難点です。そこで、腹腔鏡下手術の専門チームを組み、互いに補い合いながらスムーズに作業が進められるよう、手術のプロセスを定型化しています。
また、最近大ヒットしている「3D映画」のように、医療用モニターの3次元化が進めば、奥行きの感覚がつかみやすくなり、手術の精度が上がるだろうと期待しています。

聞き手:電子メスなどの器具類も、どんどん新しいものが開発されています。

高瀬:腹腔鏡下手術に携わる医師としては、出血で視野を妨げられることが大きなリスクなのですが、縫合糸を使わない「ベッセルシーリングシステム」や超音波凝固切開装置を使えば、より安全な止血を行うことができます。

聞き手:適用される症例の範囲も広がってきましたね。

高瀬:日本で腹腔鏡下手術が始まった当初は、まず胆のう摘出などを中心に普及していきましたが、今では大腸ガンや胃ガンなどの治療法としても注目されています。当院では、昨年一年間で胆のう手術60例、胃ガン手術20例、大腸ガン手術20例の実績があります。
出血のリスクの高い肝臓や膵臓の手術で腹腔鏡を用いることは、まだ一般的ではないですが、ハードが充実して医師の技術も向上すれば、適用例が増えてくるかもしれません。

聞き手:まれに、腹腔鏡下手術が向かない患者さんもいらっしゃいます。

高瀬:術時間の長さが気になる場合、合併症のおそれがある場合は避けたほうがいい場合もあるでしょう。また、以前に大きな開腹手術を受けた経験のある方や、すでに癒着が起こっている方などには、あまり向きません。

聞き手:昨年10月から始めた「単孔式」の腹腔鏡下手術は、文字通り腹部に「1つだけ」穴を開けて、トロッカーを挿入する方法ですね。

高瀬:アメリカやヨーロッパでは1、2年前から普及している手法なのですが、ヘソの部分を切開するので傷跡がより目立ちにくく、“invisible scar”あるいは“no visible scar”と表現されています。また、個人差はありますが痛みも少ないと言われています。
とくに女性の患者さんは、美容面から手術跡を気にされることが多いですから、単孔式という選択肢もあるということを覚えておいていただければ・・・・・・と。

聞き手:腹腔鏡下手術をより安全に行っていくためには、われわれ医師が十分な経験を積み、正しい知識を身に付けていることが重要でしょう。

高瀬:おっしゃるとおりです。「内視鏡外科学会技術認定医」は、匿名で腹腔鏡下手術の生の映像を審査し、その技術力をはかるという世界的にも珍しい、医師のための技術認定制度(合格率は約3割)です。私のような認定医は、他の認定医との情報交換や学会セミナー等での知識吸収を怠らず、当院内や地域の医師らの指導役として、腹腔鏡下手術の精度アップと普及に努めていかねばと思っています。

 

次へ 外科の詳細はこちらをご覧ください。