異常信号を出す細胞の焼灼治療で“不治の病”も根治する!? ~不整脈カテーテルアブレーション手術

武居明日美医師国民栄誉賞の受賞セレモニーで、見事なスウィングを披露した長嶋茂雄さん。2004年に突然倒れた原因は、不整脈から生じた脳梗塞と言われています。
心房細動のような難治性の不整脈を長く放置しておくと、半身不随や言語障害などの引き金となることも・・・。今回は、循環器内科の武居明日美医師に、カテーテルアブレーション手術を始めとする不整脈治療の最前線についてお話しいただきました。

 

自覚症状なき不整脈を甘く見てはいけない

Q:循環器内科の中に不整脈治療部門が出来たのはなぜですか?

武居:私は内科医として長く不整脈治療に携わってきましたが、高齢になるにつれて罹患人口が増加する「心房細動」は、超高齢社会に突入した日本において、軽視できない病気だと考えています。
心臓の拍動は心臓の筋肉内を通り抜ける電気刺激によって起こりますが、この電気刺激が何らかの原因によって狂い、拍動が極端に速くなったり遅くなったりする状態を総称して「不整脈」と呼びます。困ったことに、医師が専門的視点から診た疾患の中身と患者さんの自覚症状とがリンクしないことがあるのです。心房細動も、それ自体は直接生命を脅かす可能性は低いのですが、無治療で放っておくと心内に形成された血栓による突然の脳梗塞や心不全につながるケースがあります。長嶋茂雄さんの右腕が動かなくなったり、故・小渕恵三元首相が突然昏睡となったりしたように、ある日を境に深刻な事態に陥るリスクを秘めているのです。

 

自覚症状なき不整脈を甘く見てはいけない

Q:不整脈治療のひとつとして注目されている、「カテーテルアブレーション手術」の特徴を教えてください。

武居:脈拍数が通常に比べて多くなる「頻脈性不整脈」に有効な手術です。まず、足の付け根などの太い血管から細い管(カテーテル)を入れ、心臓まで到達させます。X投透視を併用しながらカテーテルの先についている電極を心臓の内壁に接触させ、一度に数十箇所の心電図を記録することで(図1)、不整脈の原因箇所をつきとめることができます。そして、特定した箇所を狙ってピンポイントに、あるいは線状に高周波電流をかけて、細胞をアブレーション(焼灼)することで、不整脈の原因を根本から断つのです。より複雑な不整脈の場合、3Dで画像表示することによって診断や治療をしやすくすることもできます。(図2(動画)、図3。)
私が研修医だった頃、心房細動などは“不治の病”と言われ、不本意ながら「お薬で症状を抑えながら、一生付き合っていきましょう」とお伝えしていたものですが、同じ自分の口から、「正常の脈に戻しましょう」と言えることに、喜びとやり甲斐を感じています。

Q:手術にかかる時間や入院期間はどのくらいですか?

武居:焼灼そのものは1、2分で終わってしまう疾患もありますが、複雑な不整脈ほど焼灼する範囲が広くなりますし、治療内容によって異なります。それでも、開胸手術に比べれば平均的な手術時間は短いですし、傷口もカテーテルを入れるための数ミリ程度で済みます。たとえば夕方の手術だった場合、当日の夜のみ安静にお休みいただければ、翌朝からは動いていただくことができるでしょう。
不整脈、ことに心房細動は加齢により発症しやすい病気ですが、心臓を止めて人工心肺で命を保つ外科手術ですと、他にも心臓にアプローチすべき疾患があり、心臓の余力のある患者さんであるなど、適応が限られてきます。リスクに見合うメリットがなければ手術に踏み切りにくいこともあるでしょう。

 

  

早期発見が治療法の選択肢を増やす

Q:カテーテルアブレーション手術が受けられる病院は、まだ少ないのですか?

武居:可能・不可能で言えば、当院のように血管造影室の設備と心内心電図やカテーテル器具などが一通り揃っていれば可能です。ただし、不整脈は症状が多彩で診断がつけにくい疾患であるうえ、心臓の大きさ(疾患により拡大・肥大しているケースも多い)や形に個体差が大きく、手術にも経験と高い技術が求められます。
当院の不整脈治療部門は、不整脈専門医
である私を含め常時3、4名の医師に加え、看護師、生理検査技師、ME(メディカルエンジニア:医療機器の専門知識をもった技術者)および放射線技師などのスタッフが集まり、それぞれの準備期間を経てチームワークよく立ち上がりました。現在のところは週に2、3人の手術への対応ではありますが、さらに研鑽を積みチーム力を向上させたいと思っています。
一方、不整脈治療の進化があまりにも早かったせいか、医療者であっても「不整脈は治らない」と思い込んでいる方がおられます。患者さんも、「前に診てもらった時に治らないと言われたから」と放置しておられる方がありますが、5~10年で治療の常識が変わりゆくことはしばしばあるのです。
カテーテルアブレーション手術の技術が進歩したとは言っても、当然限界もあります。たとえば、日々の不整脈でじわじわと心臓にダメージが蓄積していると予後に良くない影響を及ぼすこともあります。つまり、「早期発見」こそが、本当の意味での手術の成功率を上げ、患者さんのQOLを良くすると言っても過言ではありません(図4)。

さまざまな治療法のメリット・デメリットをお伝えし、患者さんのご希望を伺いながら、最適の治療法を一緒に考えてまいります。動悸や胸の違和感、動いたときの息切れ、気の遠のく感じなどの症状が繰り返し起こるようであれば、早めにご来院ください。

 

※不整脈専門医:2012年制定。薬物治療やペースメーカーの埋め込みなどでも一定の経験を積んだエキスパートとして認定されています(2013年4月1日現在全国で430名)。

 

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