症状に応じた正しい治療を標準化 消化器もハイビジョンで見る時代に!~胃がん、大腸がん、食道がん外科手術のいま~

川﨑健太郎医師1981年以来、がんは日本人の死因トップを続けています。とくに、東アジアに多い胃がんや食生活の欧米化で患者数が急増している大腸がんといった消化器系のがんに罹患する人は非常に多く、治療として外科手術を必要とするケースも少なくありません。

そこで外科部長の川﨑健太郎先生に、消化器がんに対する外科手術の“今昔”やクリニカルパスの効用などについてうかがいました。

 

昔は“全摘+膵臓合併切除”が標準だった胃上部がん手術

Q:1990年頃は、早期がんでも進行がんでも同じような治療が施されていたそうですね。

日本の腹腔鏡手術件数の推移川﨑:がんの進行度は、腫瘍の深さ(T因子)、リンパ節転移の有無(N因子)、リンパ節転移以外の遠隔転移の有無(M因子)という3つの因子によって判断されます。たとえば胃がんの場合、M+の遠隔転移のある進行がんになると手術による治療は難しいですが、M-ならある程度の進行がんでも、腫瘍さえ切除できれば治ることが多くなってきました。
 ところが1990年頃は、転移の可能性を避けるために胃の上部の浅いところ――粘膜面とか粘膜下層に腫瘍がある程度でも、胃の“全摘”はもちろん、膵臓や脾臓の一部にもメスを入れる手術が標準でした。しかし、時代とともに治療に関する情報の標準化と共有化が進み、手術器具など技術面でも進化を遂げたことで、臓器を温存する手術や、大切な皮膚を切開しない内視鏡手術で適応できるケースが増えてきました。

腹腔鏡胃切除後の腹部のキズQ:消化器がんに対して内視鏡手術を行う場合のメリット・デメリットを教えてください

川﨑:内視鏡手術は酸ガスを注入して膨らませたお腹に、数ヵ所の穴を開けて内視鏡を挿入して、モニター画像を見ながら手術を行います。まず、患者さんにとってのメリットは、腹部や胸を切って行う一般的な手術に比べて傷が小さく、痛みが少なく、術後の退院も比較的早いなど、低侵襲であることです
 また、ご家庭のテレビ画面がハイビジョンに変わって俳優さんの肌のキメまで鮮明に見えるようになったのと同様に、鏡視下手術でもハイビジョンが標準となり、お腹の中を拡大して鮮明な画像で記録することができるようになりました。こうして精緻な手術が再現性を持ってできるようになったことは、外科医にとってのメリットですが、ひいては患者さんに安全な手術を提供することにもつながるでしょう。
すでに、鼠径ヘルニア(脱腸)や胆石などの良性疾患は内視鏡を使った手術が主流となっていますが、がん手術に関しても安全度や予後の良さなどを示すエビデンスがそろうに連れて、適応疾患が広がっていくと思います。
当院では日本内視鏡外科学会技術認定医を中心として、精力的に内視鏡手術に取り組んでおります。外科で気軽にご相談下さい。

 

消化器内科との協同による集学的治療も

Q:進行がんの場合は、どのような治療が受けられるのでしょうか?

腹腔鏡手術中の風景川﨑:胃がんの場合、通常胃切除と同時に周辺のリンパ節まで切除します。もっと進行したものに対しては、他臓器の切除や広い範囲でリンパ節をとる拡大郭清手術をも行われるようになりました。切除の対象になる臓器は、肝臓、膵臓、十二指腸、脾臓、横隔膜などですが、腫瘍のタイプや患者さんの体力などを考慮して決められます。
拡大郭清手術は合併症の頻度が高い手術として避けられていた時代もありましたが、近年は手術技術が進歩し、情報共有によって拡大郭清の必要とされる症例がわかってきたことから、復活しつつあります。以前なら専門病院や研究機関の中だけに留まっていた情報やノウハウが標準化されたガイドラインとして共有されるようになったことは、医療サービスの向上にとって大きなプラスだと思います。
また、すでに遠隔転移が見られる進行がんや進行のスピードが非常に速い型のがんの場合は、手術のみでの根治が困難なので、抗がん剤を用いた化学療法が中心となります。外科治療を行う場合も、手術の前後に薬物療法や放射線療法を組み合わせるケースもあり、このように複数の手法を組み合わせる治療法を集学的治療と呼びます。当院では、総合病院としての特徴を生かし、消化器内科医や病理医らと協同して患者さんの状態に応じた集学的治療を行っています。患者さんには、治療について説明を受ける権利、どの方法にするかを選ぶ権利があります。納得のいく方法が選べるよう、担当医にご相談ください。

 

  

患者さんと一緒にがんと闘う!

Q:入院時、神戸労災病院では積極的にクリニカルパスを運用しているそうですね。

川﨑:クリニカルパスとは一般企業で言われる「手順書」のことです。医療用と患者さん用とがあり、患者さん用クリニカルパスは入院~手術~退院の流れを具体的に知ることで、できるだけ不安なく入院生活を過ごし、治療に専念していただけるように作成しています。検査、検温、投薬などのタイミング、絶食や入浴禁止などの注意事項、いつ点滴や鼻の管などが着脱されるかetc. がカレンダーのような表にまとめられています。

一方の「医療用クリニカルパス」は、担当医だけでなく、看護師、検査技師、理学療法士、管理栄養士、事務スタッフなど治療に関わるすべての人が治療の工程全体を把握し、過不足のない正しい治療をミスなく効率的に提供するための助けになります。
今後は、この取組みを外来での「地域連携パス」にも積極的に応用していく計画です。そして、大学病院やがんセンターで高度な治療を行ってきた当院外科医のノウハウを地域でも共有し、かかりつけ医と連携し、より効率的な治療が行えるようサポートしていければと考えています。

 

 

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