過労死撲滅を目指した臨床研究の取り組み

平成28年4月に、全国の労災病院群を統括する「労働者健康安全機構(機構)」は、労働災害に関する基礎的研究を行っている労働安全衛生総合研究所(安衛研)と統合し、法人として新しいスタートを切りました。機構は、安衛研の基礎研究機能と労災病院が持つ臨床研究機能を効率的に融合して、労働災害を予防するという社会的使命を有しています。現在機構が取り組んでいる5つの重点研究分野がありますが、私はその中で「過労死等関連疾患」に関する研究の主任研究者としての任を頂いており、その研究結果の一部が、神戸新聞で取り上げられたので紹介いたします。

過労死と循環器疾患
過労死は1980年頃から社会問題化されており、解決すべき喫緊の課題です。2014年に施行された過労死等防止対策推進法の中で、過労死は、「過重労働による自殺による死亡、脳血管疾患若しくは心臓疾患若しくは精神障害」として、法的に定義されました。具体的な疾患としては、脳血管疾患として1)脳内出血 2)くも膜下出血3)脳梗塞 4)高血圧性脳症、心臓疾患として1)心筋梗塞2)狭心症3)心停止(心臓性突然死を含む) 4)解離性大動脈瘤です。このように、自死以外の過労死疾患は脳心血管病であり、今後、過労死撲滅における循環器学の果たす役割は大きいと考えています。

過労状態では、血栓性が亢進する
2018年3月12日付けの神戸新聞で取り上げられた研究は、乙井一典先生(現在神戸大学総合内科)との共同で行ったもので、当直明けの医師の血液サンプルと、通常勤務時の血液サンプルを用いて、血栓性を全血で評価できる機器GTTにて比較検討したものです。新規血栓性評価法GTTは神戸学院大学名誉教授山本順一郎先生が開発されたものです。検討の結果、当直明けの血液サンプルでは、血液の固まり易さが有意に亢進していることが明らかになりました。今回の研究の知見は、過労に伴う脳心血管障害の機序を説明するのものと考えられます。また、こうした血液の固まり易さを検討することにより、「疲労度」を客観的に評価できるのではと考えています。本研究は、専門誌Journal of Thrombosis and Thrombolysis誌(2018;45:222-224)に掲載されています。

神戸労災病院は、急性期病院として地域医療に貢献していますが、さらに上述したように研究機関としても役割も果たしています。臨床は言うまでもなく、研究面においても少しでも社会貢献していければと考えています。

神戸労災病院 副院長 井上信孝

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